昨今の熊事情の解決策が有るのかも・・・
英国人CWニコルが2007年に出版した「マザーツリー・母なる樹の物語」は500年間日本の自然を俯瞰してきたミズナラ「サラの樹」を通して、様々な視点から環境問題に目を向けた作品です
中倉山の「孤高のブナ」の名付け親の方から紹介されて読んでみました
戦に命を散らした若者、母熊を失った子熊、切り倒された木々・・500歳のミズナラの樹が、その身に起こった出来事を物語る。
主人公は、500年の長い歳月を生きてきた、1本のミズナラの樹。「昔々、私が権轟山の麓に生まれてから今日までこの目で見た、さまざまな出来事の物語でございます。その昔、隻眼の悲しい目をした世捨て人が、私のそばに庵を編みました。私の前で、勇敢に命を散らした若武者もおりました。船大工の辰吉も、山の少女ツキも、思えば哀しい心を抱いた人たちでした。母熊を失った子熊の哀れな鳴き声や、子を捨てた母親の嘆きの声は、今もこの耳に残っております。荒らされた山、汚された川、そして切られた木々、私の体には悲しみが刻まれているのでございます。年輪の一本、一本に・・。」ナチュラリストとして知られる著者が紡ぐ、母なる樹の物語。(アマゾン)
3つの章:天の章、地の章、人の章
この作品は天の章、地の章、人の章の3部に書かれています
天の章はミズナラの「サラの樹」と「黒い岩(達磨岩)」、「白糸川」の出会い、そしてこの地に刻み込まれた深い歴史の始まりが書かれています
地の章はツキという女の子の生涯を通して、自然の不思議な力を描いています
そして人の章で人間による環境破壊がもたらした様々な現状を克明に記しました
人の章に見る環境破壊の現状と対策
人の章は、龍の荒い息、切られた木、母子熊、マザーツリーの木、龍の架け橋という目次がつけられています
龍の荒い息では、明治政府が鉄道を全国に敷くために森林を伐採したことが、水害を引き起こした状況が記されている
今は辛抱の時だ。いずれこんなことをしている連中は、みな死んでいく。人間はそのうち必ず目を覚めるだろう。こんな危険で馬鹿げたことが長続きするはずはないからな。今は我慢するのだ
達磨岩がサラの樹に呟いた言葉に、自然破壊が人間にもたらす災いに言及しています
親子熊では蜂蜜を求めて「サラの樹」のうろにできた蜂の巣に現れた3匹の親子熊が射殺された話を元に、熊がなぜ里に下りてきたのかが記されています
サラの樹が
蜜蜂はかわいそうでしたが、熊は久しぶりのご馳走を喜んだでしょう
と語ると達磨岩が
いいや、熊が人間に近づくとろくなことにならぬものだ。わし心配しているようなことにならんといいが
と今後起きる状況が見えているような書きぶりである
森が豊かなときは熊は村に近づかなかったが、広葉樹を伐採し杉や檜を植林したことで、食べるものに困った熊がやむを得ず森を下りてきたこと
畑の食べ物の美味しさを知ってしまったことが、クマの射殺の原因であることが記載されています
まさに、昨今の熊による人的被害の様子が予言されているのです
マザーツリーの血ではサラの樹を切ろうとした社長が事故で亡くなった事件を通して、針葉樹の植林地を放置してきた人間の我儘が自然破壊をもたらしてきたことが記されています
孤高のブナ
孤高のブナは栃木県日光市にある中倉山の山頂付近に取り残された一本のブナです
最近は「山と溪谷」などでも取り上げられ、人気の山となっています
私も孤高のブナに会うと元気がもらえるので年に1回は登山します
この本を読むとこのブナの木が、足尾の煙害歴史を眺め、さらに様々な緑化対策を見つめ、今は人間による地球温暖化とその解決の取組を静かに見守っているんだなと感じさせられました
ぜひこのブナがサラの樹と同様500年以上見守れるよう緑化ボランティアを続けたいなとの意識を高めることができました